2019.10.13.
   レビ記 第19章17〜18節、 ルカによる福音書 第10章25〜37節

「わたしたちの隣人とは誰か」

きょうの聖書の箇所は、「善きサマリア人のたとえ」と呼ばれるところです。主イエスが弟子たちに話をしておられるところにある律法の専門家がやって来ていて、主イエスに対して質問しました。彼は「イエスを試そうとして」「先生、何をしたら、永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか」と質問しました。この問いは、それだけ読むと真摯な信仰の問いに思えます。永遠の命を受け継ぐ、それは神様の救いにあずかるということです。救われるためには何をしたらよいのでしょうか、と彼は問うたのです。この問いに対して主イエスは、「律法には何と書いてあるか。あなたはそれをどう読んでいるか」と逆に質問なさいました。逆に質問されてしまった彼は、27節で「『心を尽くし、精神を尽くし、力を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい、また、隣人を自分のように愛しなさい』とあります」と答えました。「心を尽くし、精神を尽くし、力を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい」これは申命記第6章5節であり、イスラエルの人々が毎日祈りにおいて唱えていた言葉です。「隣人を自分のように愛しなさい」これは本日共に読まれた箇所、レビ記第19章18節です。この二つの教え、神様を愛し、隣人を愛することが、律法全体の要約であり、その基本構造なのです。

 このように答えた彼に対して主イエスは、「正しい答えだ。それを実行しなさい。そうすれば命が得られる」とおっしゃいました。すると彼は、自分を正当化しようとして、「では、わたしの隣人とはだれですか」と言いました。「自分を正当化しようとして」は口語訳では「自分の立場を弁護しようとして」となっていました。この問いに対する答えとして主イエスがお語りになったのが、「善いサマリア人」の話なのです。

   ここでわたしたちは、この「善いサマリア人」の話について、間違って受け止めてしまわないようにしなければなりません。つまり主イエスはここで、神様と隣人を心から愛し、出会う人々全ての隣人となるならば、そのことによってあなたがたは永遠の命を、救いを獲得することができる、と言っておられるのではないのです。主イエスがここで律法の専門家に、永遠の命を得るための手だてを教えておられるのではありません。むしろ主イエスは彼に、「あなたは自分が知っている教えを、あるいは分かったことを、本当に真剣に行なっているか、そのように生きているか」と問うておられるのです。その問いがそのまま私たちにも向けられています。主イエスの教えを、理解はしていても、それを本当に真剣に受け止め、そのように生きようとせずに、言い訳に終始し、自分を正当化し、自己弁護ばかりしているような歩みに陥っていないか。主イエスがお語りになったことを本当に真剣に聞き、それによって新しくされ、その教えに生きようとしているのか。そして、十字架の死と復活と昇天によって救いのみ業を成し遂げて下さる主イエスに従って、そのみ言葉を本当に真剣に聞き、その教えに従って生きることが、弟子たちに、そして私たち信仰者に求められているのです。

 主イエスの御言葉を本当に聞き、その通りに生きるならば、私たちは、神様を心から愛し、同時に出会う人々の隣人となって生きる者となるはずです。独り子主イエスの十字架の苦しみと死とによって私たちの罪を赦し、復活によって永遠の命の約束を与えて下さった神様の愛に応えて私たちも神様を愛し、そして主イエスがあのサマリア人のように、罪の中に倒れ伏している私たちを憐れみ、私たちの隣人となって下さり、救いを与えて下さったのだから、私たちも出会う人々の隣人となって生きることができるはずなのです。しかし私たちは、この律法の専門家と同じように、主イエスからの問いによって、自分が神様をも隣人をも愛することが出来ておらず、結局は自分自身のみを愛していることに気付かされ、言い訳や自己弁護ばかりしてしまう者です。私たちはどこまでいってもそういう情けない者であり、神様をも隣人をも本当に愛することができないのです。しかし大事なことは、主イエスからのこの問いかけを、「あなたは私の言葉をどう聞いているのか、そしてそのように生きているのか」という問いかけを、常に聞き続けることだと思うのです。具体的に言うならば、この「善いサマリア人」の話をいつも思い起しつつ、「行って、あなたも同じようにしなさい」という主イエスのお言葉を、自分に対して語られた励まし、勧めの御言葉として聞き、わたしたちそれぞれが出会う人々との交わりの中で、自分の手を差し伸べて、隣人となろうとしていくことだと思うのです。私たちが主イエスの御言葉を本当に真剣に聞くとはそういうことでしょう。そのことの中で、私たちは、その御言葉のように生きる者へと変えられて行くのです。

                       閉じる